過去の取り決めを「最新の基準」へ更新する
何年も前に交わした公正証書や調停調書には、現在の生活実態や最新の法制度と噛み合わない部分が出てくることがあります。また、相手が転職を繰り返したり、連絡を絶ったりした場合、古い書類だけでは対応が難しくなるケースも存在します。
第9回では、手元にある古い武器を最新鋭の装備へと磨き直す「アップグレード」の手順を解説します。
1. 養育費増額請求による「最新の債務名義」の取得
作成から年月が経ち、子どもの進学や物価の変動、あるいは相手の昇進などが判明した場合、現在の基準(算定表)に合わせて金額を見直すことができます。
・最新情報の書き込み 新たに「増額」の調停を申し立てて合意(または審判)を得ることで、最新の日付、最新の金額、そして最新の勤務先情報などが反映された「新しい債務名義」が手に入ります。これにより、古い書類を使い回すよりも確実に、かつ強力に執行をかけることが可能になります。
2. 送達証明書の再取得と住所の紐付け
強制執行を行うためには、債務名義(書類)が相手に届いていることを証明する「送達証明書」が必要です。相手が何度も引越しを繰り返している場合、古い住所のままでは執行が受理されないことがあります。
・住所の「繋がり」を制度的に証明する 住民票や戸籍の附票を取得し、古い書類に記載された住所から現在の住所までの変遷を裁判所に提出します。これにより、書類上の債務者と現在の相手が同一人物であることを法的に証明し、差し押さえの効力を復活させます。
3. 執行文の再付与手続き
差し押さえを一度行ったが回収しきれなかった場合や、書類を紛失してしまった場合、あるいは複数の勤務先や口座を同時に叩きたい場合には、執行文の「再付与」や「数通付与」の手続きを行います。
・多角的な攻撃の準備 「1つの書類で1ヶ所」という制限を、制度上の手続きによって「同時に複数の資産を差し押さえる」形へと拡張します。これにより、相手の「どこからでも来る」という恐怖を現実のものにします。
4. 2020年法改正による「陳述書」の活用
古い書類を使って「第三者からの情報取得」を行う際、裁判所に対して「これまでの経緯」を説明する陳述書の提出が求められます。
・制度的な説得力 「これまでいかに誠実に回収を試みたか」「相手がいかに不誠実に逃げ回っているか」を事務的に記録し、提出することで、裁判所という公的機関をより強力に動かすための「正当な理由」を補強します。
制度のツボ
相手がどこへ逃げても、どのような手段で隠れても、過去に確定した「支払い義務」が消えることはありません。
むしろ、逃げ回る期間が長ければ長いほど、最新の制度による「アップグレード」の対象となり、より厳しい条件での執行(延滞利息の加算など)を招くことになります。制度は、逃げる者にはどこまでも厳しく、権利を守る者にはどこまでも柔軟に寄り添うように設計されています。

