【第5回:調査術】
住所・勤務先が不明な相手を追う——「第三者からの情報取得手続」の実力
「別れた後に転職したみたいで、どこで働いているか分かりません」 「住民票を移さずに逃げ回っていて、今の住所が不明です」
これまでは、相手の勤務先や住居が分からないことは、養育費回収における「詰み」を意味していました。差し押さえの対象が特定できなければ、裁判所も手を出せなかったからです。しかし、2020年の民事執行法改正により、状況は一変しました。
第5回では、逃げ得を許さないための最強の調査武器について解説します。
1. 弁護士が使う「ルート」の劇的変化
かつては探偵を雇うなど高額な費用をかけていた調査も、現在は法的手続きを通じて、より確実かつ安価に実行できるようになっています。
- 職権による住民票・戸籍の調査: 弁護士は受任した事件の解決のために、正当な理由があれば相手方の「戸籍附票」などを取得できます。これにより、転居先を芋づる式に特定することが可能です。
- 弁護士照会(23条照会): 携帯電話番号から通信会社へ、あるいは銀行口座から登録住所へ、法的な照会をかけることができます。
2. 最強の武器「第三者からの情報取得手続」
改正法によって導入されたこの制度は、裁判所を通じて公的機関や金融機関から直接情報を引き出すものです。
- 勤務先の特定(市町村・年金機構への照会): 相手がどこで働いているか分からない場合、裁判所が市区町村や日本年金機構に対して、「この人物に給与を支払っているのはどこか」を照会します。これにより、転職先を隠していても、会社名と住所が判明します。
- 預貯金の特定(銀行への照会): 「どこの銀行を使っているか」さえ分かれば、本店に対して全支店の口座情報を一括照会できます。残高がある口座を狙い撃ちして差し押さえることが可能です。
3. 手続きを実行するための「条件」
この強力な調査を行うには、以下のいずれかが必要です。
- 債務名義があること: 第3回で解説した公正証書や調停調書など。
- 財産開示手続を経ていること: 裁判所に相手を呼び出し、財産を白状させる手続きです。これに応じない、あるいは嘘をつくと「前科」がつくほど重い罰則(6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金)があります。
4. 「逃げても無駄」という心理的プレッシャー
この制度の本当の価値は、情報の取得だけではありません。「逃げ切れる」と信じている相手に対し、「国家権力を使ってあなたの居場所も給料袋も特定した」という事実を突きつけることにあります。 勤務先に裁判所からの通知が届いた瞬間、相手の「逃げ得」の目論見は崩壊し、多くのケースで話し合いのテーブルに着かざるを得なくなります。
マニュアルのツボ:デジタル時代の足跡は消せない
今の社会で、仕事をしながら、あるいはスマホを使いながら完全に姿を消すことは不可能です。 「どこにいるか分からない」と諦める前に、プロの調査能力を信じてください。弁護士は、相手が残したわずかな「足跡」から、給料という「本丸」に辿り着くための地図を描き出します。

