【第3回:証拠・書面】
公正証書がない場合の処方箋—「口約束」から「法的債務」への再構築
「離婚するとき、公正証書を作らなかった。だからもう差し押さえなんてできない……」 そう諦めてしまうのは、まだ早すぎます。確かに公正証書があれば手続きはスムーズですが、なくても今から「法的武器」を作り直すことは可能です。
第3回では、書面がない絶望的な状況から、どのようにして相手の給与を差し押さえられる状態まで持っていくか、その具体的なルートを解説します。
1. なぜ「口約束」では差し押さえができないのか
法律上、口約束であっても養育費の合意は成立します。しかし、裁判所が相手の給与を強制的に差し押さえる(強制執行)ためには、「債務名義(さいむめいぎ)」という公的な書類が必要です。
- 公正証書(強制執行認諾文言付き)
- 調停調書
- 審判書、判決書 これらがない場合、まずは「債務名義」を手に入れるための手続きが必須となります。
2. 最優先ステップ:養育費請求調停の申し立て
書類がない場合に最も一般的な解決策は、家庭裁判所へ「養育費請求調停」を申し立てることです。
- 「請求した月」が基準になる: 養育費は原則として、申し立てた月までしか遡って請求できません。悩んでいる間に時間が過ぎると、本来受け取れたはずの権利が消滅してしまいます。
- 話し合いが決裂しても大丈夫: 調停で相手が拒否し続けても、「審判」という手続きに移行し、裁判官が双方の収入(算定表)に基づいて支払額を強制的に決定します。
3. 過去の「LINE」や「メール」は立派な証拠になる
「公正証書はないけれど、LINEで『毎月5万円払う』とやり取りしていた」という場合、それは調停において非常に有利な証拠となります。
- 合意の証明: 「一度は合意していた」という事実は、調停委員や裁判官に対して相手の不誠実さを訴える材料になります。
- 遡及(そきゅう)請求の可能性: 内容によっては、申し立て前からの未払い分を認めさせる交渉材料になることもあります。
4. 弁護士が介入して「即座に」書面化するメリット
調停を待たずとも、弁護士が相手方と交渉し、改めて「公正証書」を作成し直す合意を取り付けるケースもあります。 「裁判所の手続きを避けたいなら、今すぐ執行認諾付きの公正証書を作ろう」と迫ることで、最短距離で差し押さえ可能な状態を構築します。
マニュアルのツボ:後悔を「法的アクション」に置換する
「あの時、書類を作っておけば」と過去を悔やむエネルギーを、今日「家庭裁判所のホームページから申立書をダウンロードする」エネルギーに変えてください。 書類がないことは「負け」ではありません。単に「今から手続きが必要な状態」であるだけです。弁護士は、バラバラになった過去のやり取りを繋ぎ合わせ、相手が逃げられない最強の書面を作り上げるパートナーです。

