転職・引越しという「逃亡術」を無効化する

養育費『養育費執行の完全体系』

どこへ逃げても「社会」からは逃げられない

不払い者が追い詰められたとき、最後にとる手段が「逃亡」です。「会社を辞めた」「実家に帰ったが住所は教えない」と行方をくらませ、これまでの督促をリセットしようとします。しかし、2020年の民事執行法改正以降、日本国内で「普通に生活している」限り、彼らを追跡することは驚くほど容易になりました。

1. 勤務先を「特定」する最強のカード

給与を差し押さえようにも、相手が転職して勤務先が不明では手が出せません。そこで威力を発揮するのが「第三者からの情報取得手続」です。

これは、裁判所を通じて「日本年金機構」や「市区町村」に対し、相手の勤務先情報を開示させる仕組みです。相手が正社員であれ、厚生年金に加入しているアルバイトであれ、国や自治体には必ず「どこで働いているか」の記録が残ります。この網の目から逃れるには、それこそ「一切の社会保障を捨てて闇で働く」しかなく、現実的にはほぼ不可能です。

2. 住民票を移さなくても「現住所」は判明する

「住民票を実家に置いたまま、別の場所で隠れて住んでいる」というケースもよくあります。しかし、これも「弁護士会照会(23条照会)」などを活用すれば、携帯電話の契約住所や、公共料金の支払い状況から現住所を特定できる場合があります。

また、相手が車を所有しているなら、ナンバープレートから登録住所を割り出すことも可能です。「誰も自分の場所を知らないはずだ」という相手の油断は、現代のデジタル社会においては通用しません。

3. 「辞めた」という嘘を逆手に取る

相手が「もう会社を辞めたから給料はない」と嘘をつくことがあります。この場合、まずは前述の手続きで事実を確認しますが、もし本当に辞めていたとしても諦める必要はありません。

  • 退職金の差し押さえ: 相手が大手企業や公務員、長年勤めた職場を辞めた場合、発生する「退職金」を差し押さえることができます。
  • 空振りにさせない: 一度差し押さえの効力が発生すれば、将来にわたって(相手が転職しても)追いかけ続ける準備を整えることができます。

コラムのツボ:逃亡は「借金の増額」に過ぎない

相手が逃げ回っている期間、養育費の支払い義務が消えるわけではありません。それどころか、未払い分には「遅延損害金(年3%など)」が加算され続け、雪だるま式に膨れ上がります。

逃亡した相手を追いかけるのは、確かに精神的な労力を使います。しかし、今は「探偵を雇って尾行する」時代ではなく、「裁判所を通じて書類を送る」時代です。あなたがやるべきことは、相手を追いかけることではなく、弁護士と共に「公的な追跡システム」のスイッチを入れること。

相手が新しい職場でようやく落ち着いた頃に届く「差し押さえ通知」は、逃げ得を信じていた相手にとって、これ以上ない絶望の知らせとなります。