第5回:第三者からの情報取得制度

養育費『養育費執行の完全体系』

相手の「今の職場」を特定する最新ルート

強制執行を行うためには、差し押さえる対象(勤務先や銀行口座)を特定しなければなりません。かつては、相手が転職して職場を隠すと、被害者側が自力で調査するしかなく、回収を断念するケースが後を絶ちませんでした。

第5回では、2020年の民事執行法改正によって新設された「第三者からの情報取得手続」について解説します。

1. 法改正がもたらした「公的ルート」の解禁

以前は、裁判所であっても公的な機関に対して「この人はどこで働いているか」を照会することはできませんでした。しかし、法改正により、一定の条件を満たせば裁判所を通じて公的な情報を強制的に取得できるようになりました。

・情報の秘匿性を超える権利 養育費債権など特定の権利を持つ場合に限り、個人情報の壁を越えて「真実の勤務先」を特定することが制度的に認められたのです。

2. 市区町村や年金機構からの勤務先特定

相手の今の職場を特定するために、以下の機関に対して情報取得を申し立てることができます。

・市区町村 相手の住民票がある自治体に対し、給与支払報告書(住民税の特別徴収情報)の開示を命じます。これにより、現在どこの会社から給与が支払われているかが判明します。

・日本年金機構(または共済組合) 厚生年金や共済年金の加入状況を照会します。これにより、社会保険に加入している正規の勤務先が確実に特定されます。

3. 銀行本店に対する預貯金口座の特定

「相手がどこの銀行を使っているか見当もつかない」という場合でも、この制度が活用できます。

・全店照会 特定の銀行の本店に対し、全国の支店にわたって相手名義の口座があるかどうか、またその残高がいくらかを回答させる手続きです。以前のように「支店名まで特定」する必要がなくなりました。

4. 手続きの要件:財産開示手続の先行

この強力な「情報取得制度」を利用するためには、原則として「財産開示手続」というステップを先に踏む必要があります。

・財産開示手続とは 裁判所が相手を呼び出し、自分の財産を目録にして提出させる手続きです。これに応じない、あるいは嘘を吐いた場合、現在は「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」という刑事罰の対象になります。この手続きを経て、なお資産が不明な場合に初めて、前述の「第三者からの情報取得」へと進むことができます。


制度のツボ

「相手の居所や職場がわからないから諦める」という時代は終わりました。

公的なデータ(税金や社会保険)に紐付いて働いている限り、国家の制度を用いてその所在を突き止めることが可能です。この最新の法的ルートを知っておくことは、逃げ回る相手に対する最大の抑止力となります。