多くの親が、回収を諦める理由に「子どもも納得しているから」という言葉を挙げます。しかし、その「納得」は本当に本心なのでしょうか。第8回は、子どもの気遣いを「解決」だと勘違いし、数年後にその代償の大きさに気づいた母親の告白です。
1. 「手のかからない子」という免罪符
Eさんの息子、直樹さん(仮名)は、幼い頃から周囲に「大人びている」と言われる子でした。離婚後、元夫からの養育費が半年で途絶えたとき、Eさんが「お父さん、また遅れてるみたい。ごめんね」とこぼすと、当時小学生だった直樹さんはこう答えました。 「お母さん、お金のことは大丈夫だよ。僕、習い事もそんなに好きじゃないし、家で本を読んでるのが一番楽しいから」
Eさんはその言葉に救われました。相手と争うストレスから逃げたい一心だった彼女は、「直樹がこう言ってくれているのだから、無理に回収して波風を立てる必要はない」と、自分に言い聞かせるようにして督促をやめてしまいました。
2. 「やりたいこと」を言わなくなった子ども
直樹さんはその後も、一度も「あれが欲しい」「ここに行きたい」と言い出すことはありませんでした。高校進学も、学費の安い公立校一択。大学も「家から通える範囲で、奨学金が取れるところしか行かない」と、最初から選択肢を絞り込んでいました。
Eさんは、それを直樹さんの「堅実な性格」だと思っていました。しかし、彼が大学生になったある日、何気なく将来の夢を尋ねると、直樹さんは寂しそうにこう漏らしました。 「本当は、建築の勉強がしたくて東京の大学に行きたかったんだ。でも、お母さんが夜遅くまで働いているのを見ていたら、そんなこと口が裂けても言えなかった」
3. 「聞き分けの良い子」にさせてしまった罪
Eさんは衝撃を受けました。直樹さんの「大丈夫」は、決して納得ではなく、親をこれ以上困らせないための「自己犠牲」だったのです。 親が相手と戦うことを避けた結果、そのシワ寄せはすべて子どもの心に、そして「夢の封印」という形で蓄積されていました。
「私は、直樹の優しさに甘えて、親としての義務を放棄していたんです。私がもっと図太く、なりふり構わず相手から回収していれば、あの子にこんなに早く『大人』にさせてしまうことはなかったのに……」
コラムのツボ:子どもの「大丈夫」はSOSである
子どもは親の表情を驚くほどよく見ています。親が相手との交渉で暗い顔をしていれば、子どもは反射的に「自分が我慢すれば、お母さん(お父さん)が笑ってくれる」と学習します。
子どもの物分かりの良さを、回収を諦める言い訳にしてはいけません。むしろ、そんな優しい子だからこそ、その優しさが将来「限界」を迎えないように、親が矢面に立って権利を勝ち取る必要があります。子どもの「大丈夫」という言葉の裏にある小さな溜息を、制度という力で希望に変えられるのは、あなたしかいないのです。

