「今さら動いても無駄ではないか」「もう子どもも大きくなってしまったし……」。そう考えて立ち止まっている方に、ぜひ読んでいただきたい事例があります。第9回は、10年にわたる不払いという空白期間を乗り越え、最新の制度を武器に「正義」を取り戻した母親の物語です。
1. 10年間の沈黙と、積み重なった諦め
Fさんの元夫は、離婚からわずか2年で支払いを止め、その後は転職と転居を繰り返して行方をくらませました。子どもが小学生から高校生へと成長する多感な時期、Fさんは一人で家計を支え、元夫の存在は家庭内で「最初からいなかったもの」として封印されてきました。 しかし、娘の大学進学を前にしたとき、Fさんの心に火がつきました。「娘の学費を捻出するために必死な自分に対し、あのアドバルーンのように無責任な男がどこかで笑っているのは、どうしても許せない」
2. 最新制度がこじ開けた「逃亡者」の居場所
Fさんが活用したのは、2020年の法改正で強化された「第三者からの情報取得手続」でした。 かつては探偵を雇わなければ不可能だった住所や勤務先の特定が、裁判所の手続きを通じて、日本年金機構や市区町村から公的に引き出されました。10年間、どれほど巧みに逃げ回っていたとしても、社会保険や住民税の網の目からは逃げられなかったのです。 判明した新しい勤務先に対し、Fさんは即座に「給与の差し押さえ」を執行しました。さらに、10年分の滞納額には「遅延損害金」が加算され、その額は数百万という膨大なものになっていました。
3. 「お母さんは私のために戦ってくれた」
差し押さえが始まった当初、大学生になっていた娘さんは戸惑いを見せました。しかし、Fさんが「これは単なるお金の問題じゃない。あなたがこれまで受けるべきだった権利を取り戻す、当たり前の手続きなの」と毅然と説明し、実際に回収した資金で学費の心配がなくなったとき、娘さんの表情に変化が現れました。
「お父さんに見捨てられたと思っていたけど、お母さんがこうして戦ってくれたことで、自分の存在が否定されていなかったんだと確信できた。お母さん、ありがとう」
10年越しの回収は、家計を助けただけでなく、娘さんが抱えていた「見捨てられ不安」を癒やす、最高のセラピーとなったのです。
コラムのツボ:時効さえ気をつければ、いつでも「反撃」は可能
養育費の請求には時効がありますが、定期金債権として確定していれば、そのハードルは決して高くありません。たとえ10年経っていても、相手がどこへ逃げていても、現代の法制度はあなたの味方です。
「今さら」ではなく「今だからこそ」。 過去の不払いを清算させることは、子どもに対して「理不尽な逃げ得は許されない」という社会のルールを教えることでもあります。あなたが勇気を出して最新のシステムを起動させたその日は、親子にとっての「再生の日」になるはずです。

