第8回:2020年法改正の遡及適用

養育費『養育費執行の完全体系』

古い書類を最新の武器に変える方法

2020年(令和2年)4月に施行された民事執行法の改正は、養育費の回収に革命をもたらしました。ここで多くの人が抱く疑問が、「法改正より前に作った公正証書や判決書でも、新しい制度(勤務先の特定など)を使えるのか」という点です。

第8回では、古い債務名義を最新の強力な武器として蘇らせる「遡及(そきゅう)適用」の仕組みを解説します。

1. 改正法の遡及適用という救済

結論から言えば、2020年の法改正前に作成された公正証書、調停調書、判決書であっても、最新の情報取得手続(勤務先の特定や口座の全店照会)を利用することが可能です。

・制度の連続性 法改正は「手続き」に関するルールの変更であるため、債務名義自体が古くても、今から行う申し立てについては最新の法律が適用されます。これにより、何年も前に諦めていたケースでも、現在の強力な制度を使って再チャレンジする道が開かれています。

2. 第三者からの情報取得を可能にする条件

古い書類を使って、相手の勤務先を市区町村や年金機構から聞き出すためには、一定のステップを踏む必要があります。

・財産開示手続の実施 最新の制度を利用するための「鍵」となるのが、第5回でも触れた「財産開示手続」です。古い書類であっても、まずはこの手続きを裁判所に申し立てます。そこで相手が財産を明かさない、あるいは出頭しない場合に、初めて「第三者からの情報取得」という最新の武器が解禁されます。

3. 2020年以前の公正証書に関する注意点

法改正前の公正証書であっても差し押さえ自体は可能ですが、一点だけ確認すべきポイントがあります。

・執行認諾文言の有無 第2回で解説した通り、公正証書に「強制執行を承諾する」という文言が入っていることは、新法旧法に関わらず必須の条件です。これさえ入っていれば、作成時期がどれほど古くても、民事執行法152条の「給与50パーセント差し押さえ」の特権を享受できます。

4. 過去の不払い分も最新制度で回収

法改正後の手続きを使えば、法改正以前に発生していた「過去の滞納分」についても、新しいルール(50パーセント差し押さえや全店照会)で回収することが可能です。

・時効への配慮 ただし、養育費には原則として5年(または10年)の消滅時効があります。制度が新しくなっても、時効にかかってしまった分まで遡って差し押さえることはできません。古い書類をお持ちの場合は、一刻も早く最新の手続きに乗せることが肝要です。


制度のツボ

「昔決めたことだから、今の法律は使えない」と思い込むのは大きな損失です。

制度は、過去に正当な権利を確定させた人を、最新の技術と法理で守るためにアップデートされています。古い公正証書や調停調書は、いわば「眠れる獅子」です。最新の民事執行法という命を吹き込むことで、最強の回収ツールへと変貌します。